徳島文理大学 香川薬学部 生体防御学講座  本文へジャンプ
研究内容

研究テーマ:


体中で最も広い表面積で外界と接する腸には、体全体のリンパ球の約60%以上が配備され、常に外界からの病原体や異物の侵入に備えている。私達は、ビタミンAが、腸関連二次リンパ系器官の樹状細胞によってレチノイン酸に変換され、T、Bリンパ球に与えられると小腸組織移入(ホーミング)特異性をインプリントすることを発見した。つまり、ビタミンAが欠乏すると、リンパ球を小腸に配備できなくなり、容易に腸感染症を招いてしまうことになる。これは、世界の発展途上地域で、ビタミンA補給が乳幼児の命を救う根幹のメカニズムとなっていると考えられる。レチノイン酸は、さらにTリンパ球の機能分化にも影響を与え、食物などに対する経口免疫寛容にも関与する。私達は、これら免疫細胞におけるレチノイン酸の産生と作用の分子機構の解明を目指すとともに、ビタミンAを中心とした食品およびホルモンなどが免疫機能調節に果たす役割を明らかにすることを通じて、アレルギー性炎症や自己免疫疾患、そして腫瘍などに対する新たな治療、創薬、そして食品利用への基盤を創成することを目指している。



近年の研究の紹介:


免疫系がその役割を果たすためには、必要な機能を持つ免疫細胞が体の的確な場所に移動する必要がある。免疫系の司令塔であるT細胞は血液やリンパ液の流れに乗って全身を巡回しているが、抗原と出会い活性化されるまでは二次リンパ系器官以外の組織には移入できない。しかし、一旦、二次リンパ系器官で抗原と出会って活性化/メモリーT細胞となると通常の組織にも移入できるようになる。但し、抗原との出会の場所である二次リンパ系器官が所属する組織に特異的に移入(ホーミング)する傾向がある。例えば、腸関連の二次リンパ系器官(パイエル板や腸間膜リンパ節)で抗原刺激を受けたT細胞は、小腸に特異的にホーミングする傾向がある。T細胞の組織特異的なホーミング制御の分子機序は全く不明だったが、2004年に私達は、ビタミンA由来のレチノイン酸が、T細胞に小腸ホーミング特異性をインプリントする生理的因子であることを発見し、さらに、パイエル板や腸間膜リンパ節の樹状細胞の中には、レチノイン酸合成の鍵を握る酵素RALDH (retinaldehyde dehydrogenase) を発現してビタミンA(レチノール)からレチノイン酸を生成する能力を持つものが存在することを発見した(Immunity 21:527-538, 2004)。これらの樹状細胞は、T細胞に抗原提示する際にレチノイン酸を与えることで、小腸ホーミング特異性をインプリントする。B細胞の小腸へのホーミングについても同様なメカニズムが関与しており、レチノイン酸がT細胞非依存性IgA抗体産生を促進することも、2006年にvon Andrian教授(Harvard大)らとの共同研究で明らかにした(Science 314:1157-1160, 2006)。

 2009年には、個々の樹状細胞において、RALDHの相対活性を計測する方法を確立し、レチノイン酸産生能力を持つ樹状細胞サブポピュレーションを同定した。レチノイン酸産生能力は、樹状細胞の成熟とRALDHのアイソフォームRALDH2の発現にほぼ依存していた。それに基づき、腸において樹状細胞にRALDH2発現を誘導する生理的因子を探索し、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)が、主要な役割を果たすことを発見した。レチノイン酸自体も必須補助因子として関与していた。また、IL-4とIL-13は、GM-CSFと同様な効果を示し、GM-CSFと相乗的に作用したが、受容体欠損マウスの解析から、これらは必須因子ではないことが判明した。Toll様受容体からの刺激も、樹状細胞の成熟と同時にRALDH2発現を促進した(Int Immunol 21:361-377, 2009)。

 レチノイン酸は、以前よりT細胞のヘルパーT細胞1型(Th1)および2型(Th2)への機能分化にも影響を与えることが、私達の研究を含めて明らかとなっていた(Int Immunol 15:1017-1025, 2003)。2007年になって、私達の発見したレチノイン酸産生樹状細胞が、リンパ球の移動ばかりでなく、誘導型Foxp3+制御性T細胞(iTreg)の分化を促進し、炎症促進性Th17細胞の分化を抑制することが、複数のグループによりほぼ同時期に報告された。これは、レチノイン酸が、経口免疫寛容の成立と、それによる全身性の抗原特異的免疫反応の抑制に関与する可能性、および炎症反応の制御に関与する可能性を示唆した。私達は最近、ビタミンA欠乏下では、T細胞ばかりか、腸間膜リンパ節の樹状細胞の性質が著しく変化し、経口抗原特異的でIL-13とTNF-α(tumor necrosis factor-α)を高産生する新規炎症性Th細胞を誘導することを見出した。ビタミンA欠乏下では一般に抗体産生反応が低下することが広く知られていたが、私達は、食物抗原に対しては、著しく強いIgG1抗体産生およびIgE抗体産生がIL-13依存性に誘導されうることも見出した。この反応には上記IL-13高産生性の新規炎症性Th細胞が関与すると考えられる(Mucosal Immunol 7: 786-801, 2014)。現在、この新規Th細胞の性質と分化誘導機序およびアレルギー炎症性疾患における役割について解析を進めている。

 このように、ビタミンAレベルによる免疫反応の制御と免疫学的疾患との関係を解析しており、さらに、免疫細胞におけるレチノイン酸作用(J Immunol 186:733-744, 2011)およびRALDH2発現の分子機構(PLos ONE 9: e 96512, 2014)、レチノイン酸分解系の免疫制御における役割(PLoS ONE 6:e16089, 2011)、レチノイン酸受容体(RAR)とヘテロダイマーを形成するRXRのリガンドや環境化学物質によるレチノイン酸シグナルの増幅、攪乱の可能性(J Immunol 185:5289-5299, 2010; J Immunol 191:3725-3733, 2013)などについても研究を進めている。







図の説明:

左のパネル:培養液中にレチノイン酸を加えて、あるいは加えずに活性化したCD4+ ナイーブT細胞をそれぞれ蛍光標識し、同数の細胞をマウスに注射すると、レチノイン酸処理細胞(緑色)は、小腸のパイエル板と粘膜固有層に非処理細胞(赤色)より多く移入(ホーミング)しているが(左上)、鼠脛部リンパ節ではその逆の傾向がある(左下)。

右のパネル:正常(右上)およびビタミンA欠損マウス(右下)の小腸繊毛とその近傍の細胞の核(青色)と
CD4+ 細胞(赤紫色)を検出した。ビタミンA欠損マウスの小腸粘膜固有層にはCD4+ T細胞がほとんど見られないことが分かる。(Cell Pressの許可を得てIwata et al., Immunity 21:527-538, 2004より引用)